姑の糸目がひらく時

かんかん橋世界でいちばん恐ろしいのは何を考えているかわからない相手であって、その人なりの道理がわかればその人は理解できるし信頼関係を築くことも出来ることになっている。

権藤木家の姑と夫が糸目だったり、市毛家の息のかかった人々が一様に左右の目が妙に離れた作り物のような表情だったり、この作品の悪役は目に表情がないことを記号として描かれるのだ。

だからトキ子と向井さんのちがいは白目の面積で、向井さんはやや白目が多いので信頼や困惑といった感情がわかる。こう考えて来ると、第1話では不二子の目にも白目の部分がそれなりにあって表情がわかるという事実が気になる。彼女の目が黒目で塗りつぶされるのは萌がおこんじょうに気づいた2話以降なのだ。

このことが気になり出すと、実は読者が見ている「かんかん橋」の画面は客観的な風景なのではなくてあくまでも萌の目に映った世界なのではないかとも思えて来る。もしかすると、こうじやのおばさんらには最初から不二子は黒目だけの無表情な怪物に見えていたかも知れないし、川東の住人のほとんどにはトキ子や毛者衆ですらそれぞれに感情や個性のある存在として見えているのかも知れない。