ぼくがかんがえたウルトラマンオーブオリジンサーガ
1.
「うるせえよ!」 クレナイ・ガイは二段ベッドの上から通路へ首を伸ばすと、下段の客を怒鳴りつけた。確か19歳といったその少年客は、よりによってドミトリーに女を連れ込んで事に及び始めたのだ。
(白人はところかまわず盛りやがる……。しかも脱いだブーツがくせえんだよ!) 人種的偏見にまみれた悪態をつく彼は、しかし宇宙人だった。あの戦いから100年、全てを失って地球を放浪し続けた彼は、バンコクはカオサン通りの安宿に沈没していた。半年前、東京のブックオフで見つけた『深夜特急』に、彼は今さらかぶれていたのだ。
ドラッグに溺れては、たまに路上に出て些細なことから喧嘩を繰り返す日々。わずかに残った光の戦士の力で相手に重傷を負わせてしまうこともしばしばだった。「また、やっちまった……」 虫の息で横たわる相手を見下ろしながら、一方でガイは堕ちるところまで堕ちてみよう、そんなことさえ考えるのだった。反省、成長、彼にはもっとも無縁な言葉だった。
2.
「どうしてあなたが呼ばれたか、わかっていますね」 ここ数十年でようやく実体を取り戻しつつあるタマユラ姫は、ジャグラーの目を見据えて問いかけた。
「最近、入らずの森にトトロがいるって近所の小学生が噂してるやつの正体はあなただってことですか?」
「え? そんな噂が……?」
「ガイの話じゃないんですか?」
「そ、そうです。大きな災いがこの星に迫っています。それを止められるのは光の者のみ、そして、光の者を闇から救い出せるのは、あなただけです。ところでトトロのことですが……」
「ご冗談でしょう。今は闇の勢力に身を置く俺が、あいつを?」
「あなた達は光と闇、光あるところ必ず闇がある。そして、闇はつねに悪しきものではありません」
吐き捨てるジャグラーに、玉響姫はおだやかなまなざしを向ける。
「ほう? そこまでご信頼とあらば、協力もしますよ? それ相応の見返りはもらいますがね……」
タマユラ姫がゾフィーのカードを持っていることは、知っていた。
「その話は後です。今はトトロ……あっ」
ジャグラーの姿は、すでになかった。
3.
2時間後、ジャグラーは成田空港でバンコク行きタイ航空便の貨物室に身を潜めていた。ガイの居所などだいたい見当がつく。奴が日本を離れる直前、ブックオフで沢木耕太郎を買っていた。ならば……。あの日、ジャグラーは100円文庫の棚の陰からレジで会計をすませるガイを見ていた。
そもそも魔王獣は俺が復活させる予定だったのだがな。タマユラ姫の前では隠していたダークリングを胸に抱きながら、ジャグラーは今後の計画について考えた。まあいい。俺は俺で魔王獣を利用する。
離陸した飛行機が高度を上げると、貨物室に容赦なく冷気が忍び込んで来る。寒い場所は苦手だ。特にあれ以来、寒さはO-50戦士の頂、あの吹雪を思い出させやがる……。ジャグラーは狭い隙間で折り曲げた膝に顔をうずめた。チケットを買って客席に乗るという発想は、彼らにはなかった。
―つづかないので誰か続きを書いてください―