2月14日の朝と夜

まえがき

二次創作です。小説の一場面にするためのスケッチ、のつもりだったのですが会話だけで長くなってしまったのでひとまずオチもつけてまとめました。全編会話文のみで、特に物語らしい物語はありません。

時間設定は原作無印の最終決戦から卒業式の間ということにしていますが、もしふたりの時間が正月明けから卒業式までワープしていると解釈すると、全体があり得ない会話になってしまいます。その場合はアナザーストーリーというか平行世界の話として許してください。もっとも、志穂や莉奈たちにはふたりがいつも通り存在しているように見えていたはずなので、最初の昇降口での会話は問題ないとは言えます。

  

1 朝の昇降口

莉奈 おはよう 

志穂 おはよう。見た見た見た? さっき校門のところで、剣道部の中島くんが女子に囲まれてたの。

莉奈 それを言わないでよ。私、それ見て自分のチョコ渡せなくなったんだよね。なんか近づけなくて。

志穂 あ、莉奈も中島くんに?

莉奈 うん。今日中にはぜったい渡すよ~。あ、なぎさ。

なぎさ おはよう、莉奈、志穂。ふう、参った、参った。

志穂 ね、ね、ね、その紙袋、全部チョコレート?

莉奈 ほんとだ。でもそんな両手に持ちきれないくらい、誰にあげるの?

なぎさ これ? あげるんじゃなくて、もらったやつだよ。さっき校門のところで女子に囲まれてさ。あ、下駄箱の中にもあった。このラッピングは手作りだね!

志穂、莉奈 はあ……

後輩1 あの、先輩! これもらってください!

なぎさ 私に? ありがとう。

後輩2 美墨先輩、いつも応援してます!

後輩3 なぎさ先輩!

後輩4 先輩!

志穂 なんかなんかなんか、不思議な光景だよね。

莉奈 一年の子たちはラクロスやってるなぎさしか知らないからねえ。

志穂 怖いよね、イメージって。

なぎさ 何の話?

莉奈 なぎさは相変わらずモテるねえ、って。

志穂 『私に? ありがとう』なんて、澄ましちゃってニクいよねえ。

なぎさ うふふ、この日は一年で一番楽しみなんだよねえ。学校中のチョコがぜんぶ私のものになるみたいじゃない?

志穂、莉奈 それは気のせい。

 

2 帰り道

なぎさ いやあ、きょう一日でたくさんもらっちゃった。まさに癖っ毛で綿だね。

ほのか 濡れ手で粟、ってこと?

なぎさ そうだっけ? へんなの。チョコなのに粟なんだ。

ほのか それはものの喩え! 大体そこまでこだわってて、どうして言い間違うのよ!

なぎさ まあいいじゃない。とにかくいっぱいあるし、ほのかにも一個あげるね。

ほのか くれた人に悪いわよ。なぎさへのプレゼントなんでしょう。ほら、手紙が入ってる。

なぎさ そう堅いこと言わずにさ。毎年お父さんと亮太にあげるぶんも、私がもらったのをそのまま渡してるんだから。

ほのか うーん。やっぱりもらえない。

なぎさ えー、ほのか喜ぶと思ったのに。何だかがっかり。

ほのか なぎさにチョコをくれた子たちも、なぎさの喜ぶ顔を想像しながら作ったり選んだりしてくれたんじゃない?

なぎさ ん……そうか、そうだよね。私、そんな風に考えたことなかったよ。

ほのか でも、なぎさの気持ちは嬉しいよ。

なぎさ うん。ほのかは誰かにあげるの?

ほのか まず忠太郎に……

なぎさ 忠太郎!? 犬にバレンタインのチョコなんて、あり得ない……

ほのか そうよ。犬はチョコレートを食べると中毒を起こすから、絶対にあげられないの。だから今朝は骨つき肉をあげてきたよ。いつもドッグフードばかりだから、こういう日はね。

なぎさ へえ……骨つき肉……

ほのか なぎさのぶんはないよ。

なぎさ わ、わかってるよ、それくらい。でもチョコレートが食べられないのか……犬じゃなくてよかった……

ほのか チョコの他にも、ネギやタマネギも食べられないから、台所に入って来たらいたずらして食べないように気をつけてなきゃいけないのよね。

なぎさ それなら大丈夫! タマネギは嫌いだもん。

ほのか 犬の話! なんでなぎさの話になってるのよ!

なぎさ だって……。そうだ、人間の男の子にはあげないの?

ほのか 藤村くんと木俣くんにはあげるかな。いつもお世話になってるから。

なぎさ 藤P先輩に……

ほのか なぎさはあげないの?

なぎさ そ、そうか。お世話になってるってことであげてもいいんだ。

ほのか そういうことじゃなくて。

なぎさ だ、だってそういうことじゃない。

ほのか もう、今さら隠さなくてもいいのに。

なぎさ か、隠すって何を? ……あ、よし美先生。

よし美先生 あなたたちも帰り? 先生は先に行くわね。今日は早く帰らなきゃならないの。

ほのか さようなら、先生。

よし美先生 さようなら~、ららら~。

なぎさ よし美先生、なんか雰囲気がいつもと違くない?

ほのか きっと旦那さんと約束があるのよ。

なぎさ そっか、旦那さんと……新婚夫婦の、ラブラブバレンタイデー……

 

(妄想)

藤村 おかえり、美墨さん。今日の夕飯はチョコレートフォンデュだよ。

なぎさ 先輩! どうして私の好物を!?

藤村 美墨さんに喜んで欲しくてね。今日はバレンタインに誕生日も先取りして、デザートもチョコだよ。

なぎさ すごーい! 私、先輩とチョコさえあれば……。あっ、もちろんチョコより先輩の方が好きだけど……。でもチョコがあればもっと……

 

(現実)

ほのか なぎさ、なぎさ? 電柱に頭ぶつけてるよ。

なぎさ え、そう? 慣れてるから気づかなかった。

ほのか 慣れてどうするのよ! ほら、ちゃんと前向いて歩いて。よだれも拭いて。

なぎさ うん……。でもさ、新婚夫婦のバレンタインてどんなかなあ。外国の高級なチョコとか? あっ、大人だからウィスキーボンボンとか。

ほのか 結婚て一緒にチョコを食べることじゃないと思う。たぶん。

なぎさ あ、なんかやな感じ。自分だけ大人ぶっちゃってさ。じゃあほのかは、結婚ってどんなことかわかるの?

ほのか そりゃあ、ちゃんとわかるわけじゃないけど……私は、理想や目標を共有できる人と暮らせたら幸せかな。

なぎさ り、理想……なんか難しそうだね……

ほのか なぎさはそういうのないの?                                 

なぎさ も、もちろんあるよ? 理想くらい。ええと理想、理想……。あ、そうだ。結婚したら晩ご飯のおかずは毎日ハンバーグかからあげがいいな。

ほのか おかず?

なぎさ あーでもハンバーグの日はからあげが恋しくなるし、からあげの日はハンバーグがなくて寂しくなるよね? そうだ! ハンバーグのつけ合わせをからあげにすれば! 理想のメニューじゃない?

ほのか なぎさ、それじゃ野菜が足りない……ってそうじゃなくて!

なぎさ あれ、なんかおかしい? ほのか、ハンバーグ嫌いだっけ?

ほのか もういい……

 

3 夜

なぎさ お父さん、まだかなあ。せっかくチョコレートがあるのに。

理恵 そんなこと言って、お父さんが会社でもらって来たのを食べたいんでしょ。

なぎさ ぎくっ、なんでわかるんだろう。

理恵 なぎさの考えてることくらいわかるわよ。

なぎさ すごい。お母さん、何だかほのかみたい。あれ、じゃなくて、ほのかがお母さんみたいってこと?

理恵 相変わらず雪城さんと仲良しなのね。

なぎさ うん。なんか、ほのかは私のこと全部お見通しって感じ。今日もね、私が骨つき肉たべたいなあって思ってたら……

理恵 骨つき肉? ……あら、電話鳴ってる。亮太! 電話に出て!

亮太 は~い。もしもし? あっ……! はい、僕です。亮太です。そうだ、こんど宿題を教えてもらいに行ってもいいですか? それから僕、春の星座に興味があって……

なぎさ 亮太! それほのかからの電話でしょ。なんであんたがしゃべってんのよ?

亮太 ちぇっ、ケチ。

なぎさ もしもし、やっぱりほのかだ。ごめんね、亮太がバカなことばっかり言って。でも、どうしたの?

ほのか あのね……帰りに言いそびれたんだけど、こんどの土曜日ひまだったら、一緒にイズミ屋さんに行かない?

なぎさ いいよ。でも珍しいね、ほのかがお菓子なんて。

ほのか うん。きょう一日、ずっと考えてたの。もし顔を見て話せてたら、私たちからプレゼントをあげてた人たちがいるって。

なぎさ あ……

ほのか 私、今でもずっとミップルの声が聞こえるのを待ってる。

なぎさ わかるよ。私もいつもメップルとポルンに話しかけてるもの。

ほのか だから、ふたりでチョコレートを買いに行こう?

なぎさ 賛成。ふたりで一緒に選ぼう。

ほのか いつかまた会いたい人たちのために……

なぎさ 違うよ、ほのか。

ほのか 何が?

なぎさ きっとまた会える人たちのために。

ほのか ……うん、そうだね。そうだよね。ありがとう、なぎさ。

なぎさ なあにそれ。ありがとうだなんて。

ほのか なんでもない。ふふふ。

なぎさ へんなの。ふふふ。

亮太 姉ちゃん、何泣いてんの?

 

おしまい

 

あとがき

いつのことだったか、「なぎさって『そうだ! ハンバーグのつけ合わせをからあげにすれば!』とか言いそうだよなー」とふと思ったのが妄想の発端ですが、まさかこんなになるとは予想だにしませんでした。書き終えて気づきましたが、からあげがつけ合わせについてるハンバーグって弁当屋に売ってるハンから弁当ですね。

 

途中でなぎさが藤Pとの結婚生活を妄想しますが、これは原作とずれがあります。公式ではなぎさの覚醒時(?)の妄想は藤Pと並んで歩く、手が触れ合うなどささやかな内容で、寝ている時の夢は試験で100点を取る、藤Pとの結婚式など大それた望みになるのがお約束です。「ふたりはプリキュア」はこういうバカバカしいところまでとても丁寧に描いているアニメだと思っているので、ここは自分で書きながら不満が残りました。いつもは気弱ななぎさも、チョコをたくさんもらって舞い上がっているのだと理解していただければ。

 

誕生日やクリスマスの例から考えると、なぎさはほのかに言われなくとも藤Pにチョコレートをあげる計画を立てていておかしくなかったかも知れません。これについては、なぎさにとってバレンタインデーは自分がチョコをもらう日だったので男子にあげるという発想がなかったから、と考えました。なので妄想の中でも、藤Pがチョコを用意してなぎさの帰りを待っています。

 

最後になぎさが泣いているのはまったく想定外のことで、書き終えて自分で驚きましたが、でも納得もしています。原作を見た時、なぎさもほのかも14歳にしては泣かない子たちだなと思いました。特になぎさは単純に悲しいだけで泣くことはありませんが、しかし逆に考えれば、単純に自分が悲しいだけでない涙なら惜しみなく流すはず。