入口近くに案内されるのは一人客だけではない

中華料理店で食事をしているとそう混んでいるわけではないのに向かいに人が坐った。ビールを注文したその男性は空いている隣の椅子に白杖を立てかけていて、目が不自由なのがすぐにわかった。恐らくはこの店の常連で、店員も事情を知っているので入口に一番近いこのテーブルを案内したのだろう。

驚いたのは、ゆっくりではあるがほぼ一発で運ばれて来たビール瓶とコップの場所を探り当て、やはりゆっくりだが確実にビールをコップに注いだことだ。両目のまぶたが閉じられており全盲の方に見えたのだが、場所は運ばれた時の音でわかるのだろうか。

ビールの注ぎ口をコップにあて、しかもビールがあふれる前に止めているのは、液体がコップに注ぎ込まれる音、コップと瓶の重さの変化、コップの温度の変化、そういったことの全てを手がかりにしているのだろうか。

一方的に見ていてはもちろん失礼だが、しかし一方的というのもそれこそ一方的な決めつけで、向こうも私とは違った仕方で私の存在を知覚しているのかも知れない、そんなこともおもった。