違法カジノに出前して返って来なかった丼の代金を給料から引かれる

ソープランドの前に自転車を止めていたらコンビニ袋を下げた女性が足早に店に入って行くのが見えて、ふと学生時代の先輩のことを思い出した。彼女は歓楽街の焼肉屋でアルバイトをしていたのだが、風俗店から出前があった時には出来るだけ顔をうつむけて廊下を歩き、物の受け渡しをするのだという。「同性にはあまり顔を見られたくないんじゃないかと思って」と先輩は語っていた。

当時40代だった彼女は、高校卒業後いったんは就職したが何歳のころなのか仕事を辞めて大学に入学し、卒業後はまたしばらく働いて今度は大学院に入った人である。当時は違法だった商売も含めていろいろな職種の経験があり、また主婦だった時代もあったらしい。一人で十人分くらいの人生を生きているように19や20の私には思えたし、今でもそう感じている。

先輩はいわゆる捨て犬を放っておけない人だったがよりによってそういう人が捨て犬を発見してしまうもので、力仕事を頼まれてアパートに行くと子犬が一頭こたつの周りで遊んでいた。白い小さいのをだっこしながら「だって可哀想で」と言うのだが、もちろん大家には内緒である。餌代などどう工面していたのかもわからない。

力仕事の謝礼は当然のように酒で、だがそのほとんどは酒豪の先輩自身の口に入ったはずである。タバコの煙を吐き出しながら、阿部くんもバカなことは若いうちにやっておいた方がいいよーなどと言うのを、朦朧とした頭で聞いていたのをおぼえている。

研究の話もちょこちょこ聞かせてもらったが学生としての先輩は思い込みが先走るとでも言うのか、教師らは彼女にどう接して良いか困惑していたようだし必ずしも理想的な関係ではなかったらしい。それでも修士課程を修了はして、その後はなにがしか仕事を見つけて某県に住んでいるというのを人づてに聞いた。具体的な話を何一つ書かずに申し訳ないが、とにかく無茶苦茶でかつ糞真面目な人だった。