ガスライティングとしての川南説

川南説の存在が明らかにされるのは13話(ほのめかされるのは11話)で、わりと早くからトキ子篇の構想はあったのではと思わせられる。人気が出ず22話で打ち切りになったりしていれば、不二子が川南説の元凶だったかも知れないけれども。
もっとも、ユキノブはもちろん、早菜男にしても川南説が無ければ妻にちゃんと目を向けていたかと言えばそうでもないだろう。かんかん橋は嫁姑の争いであると同時に、家庭内の問題から目を背ける夫たちと町の秘密を探索する妻たちとの闘い、あるいは正反対の生き方を描いた物語としても読める。
わたしがそうしたことを強く思うのは戸波の夫についてで、彼は「君の思い過ごしだよ」とは言っても「それは川南の話じゃないのか」とは言っていない*1。むしろそう言われた方が戸波としては反論の糸口もありどうにかなっていたのではないか。以前は川南説がなくなれば戸波家ももう少しましになるのではと考えていたが(戸波はそのためにトキ子と闘ったのだ)、最近はより絶望的な見方に傾いてしまっている。

*1:ところで、ブルーカラーの多い川東にあって戸波夫はデスクワークの人なんだろうなと何となく思っている。あるいは教師とか公務員とか。戸波はおそらく町外出身で、県庁所在地にある短大卒(橋の舞台は、短大や女子大を出てお見合いといった人生が21世紀になっても残った日本、なのだと考える)。権藤木は高校の商業科を出たあと、川東で何年か会社員をやったのち結婚か。川南移住後はその時期の貯金から当座の費用を工面したのだろう。